父が倒れて気付いた親方の心細さ
あなたはどんな職種の職人、あるいは親方ですか?職人だとすると、親方になりたいほうですか? うちの父親は若いころから親方でした。自分がやり始めた仕事のひとり親方から始めて、労働者を何人か集めて”組”を作るのがとても楽しかったようです。 戦前は旋盤工、戦後は木材伐採業、その後造船業で親方をしていました。 父の口癖は、尋常高等小学校で教わったという「鶏頭となるとも牛尾となるなかれ」ということわざで、それが父の信念だったのです。 このことわざの意味は分かっても私にはなんだか共感がわきませんでした。 父は仕事の事で家の中でもいつも考え事をしていたり、景気の上下をいつも心配していたり(景気が悪いと仕事が無くなりますから)、不平を言ってくる職人に悩まされたり、たまに事故があり誰かがけがをしたり、銀行からの借り入れをどうやって支払うか苦労していたり、とてもじゃないけど、良い仕事とは思えなかったのです。 サラリーマンなら、朝出勤して夕方帰ってくれば後は仕事の事は忘れられる、職人の給料の事で悩まなくてもよい、家族を借金に巻き込まなくて済む、サラリーマンの方がずっと楽、そう思ったものです。 ところが、その父が急に脳梗塞で倒れてしまったのです。 その時10名ほどを抱えて造船所に入っていました。急に手を引くと造船所にも職人さんにも迷惑がかかるという事で、私が急きょ代理に立ちました。にわか仕立ての親方で、すべてが見よう見まねでしたが、門前の小僧というか、長い間目の前で見てきたことは案外できるもので、そのうち自分が親方として働くのが当たり前になって父の信念もやっと理解できるようになりました。今ではリーダーシップを発揮できる親方業がすっかり好きになっています。ひとり親方になりたい人の気持ちもよくわかりますし、ぜひチャレンジしてみればよいと思います。 その時に決して忘れてはならないのが、ひとり親方の労災保険です。他人を雇うと事故やけがの心配をしますが、自分一人だとつい、まあ大丈夫だろうくらいに考えてしまいます。が、事故はいつ起きるかわかりません。もし起きてしまったら何の保証もないという事にならないように、労災保険だけは確実に加入することをお勧めします。頑張ってください。